オーストラリアで確定申告の基本
結論
オーストラリアで確定申告をするときに最も大事なのは、「とりあえずmyTaxで出せばいい」と考えないことです。
本当に重要なのは、
- 1自分が税務上の resident か foreign resident かを先に整理すること
- 2income statement が finalised されてから申告すること
- 3何を申告し、何を控除できるかを証拠ベースで判断すること
- 4自分で出す期限と、tax agentを使う期限を理解して動くこと
この4つです。
日本から来た人が最初に混乱しやすいのは、「住民票のような感覚で resident / non-resident が決まる」と思ってしまうことです。 しかしオーストラリアの税務では、税務上の居住者判定は別の考え方で決まり、これによって税率、tax-free threshold、Medicare levy、海外所得の扱いまで変わります。
そのため、申告で最初にやるべきことは「フォーム入力」ではなく、「自分がどの前提で課税されるのか」を確認することです。
先に結論を言うと、移住者や新規就労者が失敗しにくい流れは次の通りです。
- 1自分の tax residency を整理する
- 2TFN、myGov、ATO online services を使える状態にする
- 3employer の income statement が Tax ready か確認する
- 4銀行利息、給与、他所得、控除資料をそろえる
- 5自分で出すか、registered tax agent を使うかを決める
- 6期限までに lodge する
この順番で進めると、オーストラリアの確定申告でかなり詰まりにくくなります。
前提
まず前提として、オーストラリアの個人所得税の年は 1 July から翌年 30 June までです。 つまり、日本の暦年ベースの感覚とは違います。
例えば、2024–25 income year という表現なら、2024年7月1日から2025年6月30日までの所得を指します。 ここを勘違いすると、「いつの収入をどの年に申告するのか」がズレます。
次に重要なのが、resident for tax purposes かどうかです。
ATOは、税務上の resident であれば、オーストラリア国内だけでなく海外所得も原則申告対象になると案内しています。 一方で foreign resident なら、通常は tax-free threshold がなく、Medicare levy も通常は免除対象です。 つまり、この判定を間違えると、税率もMedicare levyも申告範囲もズレます。
ここで注意したいのは、ビザの種類だけで自動的に resident / foreign resident が決まるわけではないことです。 税務上の residency は、住み方、滞在の実態、定着性などをもとに判断されます。 そのため、「一時滞在ビザだから絶対foreign resident」とは限りませんし、逆も同じです。
また、確定申告は全員が必ず必要とは限りませんが、多くの人は lodge が必要になります。 特にオーストラリアで給与収入があり、源泉徴収されている人、複数の収入源がある人、銀行利息がある人、business income がある人などは、基本的に申告を前提に考えたほうが安全です。
実際の流れ
1. まず tax residency を整理する
最初にやるべきことは、resident か foreign resident かを感覚で決めないことです。
ATOは residency test を案内しており、主な判断は resides test を中心に見ます。 183-day test もありますが、それだけで機械的に決まると考えないほうが安全です。
税務上 resident なら、 ・tax-free threshold が使える ・原則として世界中の所得を申告する ・Medicare levy の対象になりうる という扱いになります。
foreign resident なら、 ・tax-free threshold はない ・Australian source income を中心に課税される ・Medicare levy は通常免除対象 という前提になります。
ここを曖昧にしたまま申告すると、還付額や納税額が大きくズレることがあります。 移住初年度は特に、いつから生活基盤がオーストラリア中心になったかを整理しておくことが大切です。
2. TFN と myGov / ATO online services を整える
次に、申告の入口を整えます。
実務上必要なのは、 ・TFN ・myGov アカウント ・ATO online services へのリンク です。
myTax を使って自分で申告する場合、ここが整っていないと始まりません。 また、income statement や過去のlodgment状況、銀行利息情報などもATO online servicesで確認しやすくなります。
初めての申告では、「TFNはあるけど myGov とつながっていない」「ATO online services に入れない」というところで止まりやすいです。 申告期限が近づく前に先に使える状態にしておくべきです。
3. income statement が finalised されてから動く
ここは非常に大事です。
オーストラリアでは、給与情報は Single Touch Payroll を通じてATOに送られ、employee は myGov 経由で income statement を確認できます。 しかし、7月1日になった直後にすぐ全員の情報が完成しているとは限りません。
ATOは、income statement が “Tax ready” または finalised になってから申告するよう案内しています。 雇用主の end-of-year finalisation declaration は通常 14 July までです。
つまり、7月上旬に急いで出すのは危険です。 とくに employer が複数いる人、転職した人、給与訂正があった人は、finalised 表示を確認してから申告すべきです。
4. 申告する所得を集める
次に、自分の所得を整理します。
代表的なのは、 ・給与 ・銀行利息 ・配当 ・事業収入 ・副業収入 ・投資収入 ・海外所得 などです。
「会社員だから給与だけ出せばいい」と思っていると、銀行利息や副収入の見落としが起きます。 特に移住初年度は、日本側の収入がどこまで関係するのかを tax residency とセットで考える必要があります。
また、ABNで仕事をした収入がある人は、employee の感覚で処理しないことが大切です。 雇用収入と事業収入は扱いが違うため、混ざる人ほど慎重に整理すべきです。
5. 控除は「払った」「仕事に必要」「証拠がある」で考える
控除で最も大事なのは、何でも経費になると思わないことです。
ATOが案内する基本はシンプルで、 ・自分が支払った ・仕事に直接関係する ・記録がある この3条件です。
つまり、 ・会社が払ったもの ・私的利用のあるもの ・証拠がないもの は、そのままでは claim しにくいです。
例えば work-related expenses と言っても、仕事で本当に必要だったか、私用分を分けられるか、receipt があるかが重要です。 「みんなやっているらしい」「去年誰かが通ったらしい」では危険です。
特に移住初年度の人は、通勤、服、スマホ、在宅勤務、道具代などを何となく広く取りたくなりがちですが、ATO基準で見ていく必要があります。
6. 自分で出すか、tax agent を使うかを決める
申告は自分でmyTaxを使って出せます。 自分で出すなら通常の期限は 31 October です。
一方で、registered tax agent を使う場合は、通常より後ろのlodgment programの期限が使えることがあります。 ただし、その恩恵を受けるには、一般には 31 October までに agent 側で顧客登録などが必要です。
つまり、 ・収入が給与だけでシンプル ・resident 判定に迷いが少ない ・海外所得やABN収入がない なら自分で出しやすいです。
逆に、 ・resident / foreign resident の判断が難しい ・日本収入や海外資産がある ・ABN収入がある ・控除項目が複雑 ・過年度修正が必要 なら、registered tax agent を使うほうが安全なことがあります。
よくある失敗
1. resident / foreign resident を適当に決める
これは最も大きな失敗です。
税率、threshold、Medicare levy、海外所得の扱いが変わるので、ここを間違えると申告全体がズレます。 「ビザがこうだから」「友人がそう言っていたから」で決めないことが重要です。
2. income statement が finalised 前に出す
7月になったからすぐ出す、という動きは危険です。 雇用主側の finalisation が終わっていないと、情報不足や修正が後から出ることがあります。
3. 給与以外の所得を見落とす
銀行利息、副業、日本側収入、投資収入などを忘れる人は多いです。 特に resident for tax purposes の人は、海外所得も視野に入るため注意が必要です。
4. 控除を感覚で入れる
「スマホ使ってるから全部」「車使ったから全部」「服を買ったから全部」のような申告は危険です。 控除は条件と証拠が必要です。
5. 31 October を過ぎてから agent を探す
registered tax agent を使えば期限が延びる場合がありますが、何もせず 31 October を過ぎてからでは遅いことがあります。 迷うなら早めに判断すべきです。
注意点
1つ目は、税務上の residency は移民上の residency と同じではないことです。
永住権の有無、ビザの名前、住民感覚だけで判定できるわけではありません。 ATOの residency の考え方で判断する必要があります。
2つ目は、Medicare levy は resident かどうかで扱いが変わることです。
foreign resident なら通常は exemption の対象になりますが、resident なら levy の対象になりえます。 つまり、医療制度の利用感覚ではなく、税務上の status で考える必要があります。
3つ目は、myTax が使いやすくても、内容確認は自分の責任だという点です。
事前入力されているから正しいとは限りません。 income statement、銀行利息、他収入、控除、personal details を自分でも確認すべきです。
4つ目は、ABN収入や海外所得がある人は、会社員だけの申告より難しくなりやすいことです。
このタイプの人は、最初から tax agent を使う判断も十分ありです。
判断基準
では、自分で申告してよいか、専門家を使うべきかは何で判断すればよいのか。
自分で進めやすい人 ・給与収入が中心 ・income statement が明確 ・resident 判定に大きな迷いがない ・控除がシンプル ・海外所得や事業収入がない ・myGov と ATO online services を使える
tax agent を検討したほうがよい人 ・resident / foreign resident 判定が難しい ・日本の収入や海外所得がある ・ABN収入や副業収入がある ・投資や資産売却がある ・過年度修正が必要 ・控除の整理が複雑 ・移住初年度で状況説明が多い
この判断を先にしておくと、申告直前に焦りにくくなります。
まとめ
オーストラリアで確定申告をするときは、単に myTax に数字を入れることが本質ではありません。
大事なのは、 ・tax residency を先に整理する ・TFN と myGov を整える ・income statement の finalised を待つ ・所得を漏れなく集める ・控除は証拠ベースで判断する ・自分で出すか tax agent を使うかを早めに決める この流れです。
移住初年度ほど、税金は感覚で動くと危険です。 でも逆に言えば、前提を先に整理すれば、確定申告はかなりコントロールしやすくなります。
大事なのは、「いくら戻るか」より前に、「正しく出せるか」を優先することです。
次にやるべきこと
今日やるべきことは、この5つです。
- 1自分の tax residency をATO基準で整理する
- 2myGov と ATO online services を使える状態にする
- 3income statement が Tax ready / finalised か確認する
- 4給与以外の所得と、控除資料を一覧にする
- 5自分で出すか、31 October 前に tax agent を使うか決める
この順番で進めれば、オーストラリアでの確定申告でかなり失敗しにくくなります。
