アメリカ西海岸に来た年の確定申告で迷いやすいこと
結論
アメリカ西海岸に来た最初の年の確定申告で最も大切なのは、「アメリカに住み始めた年は普通の1年分申告とは感覚が違う」ということを最初に理解することです。
多くの人が最初に混乱するのは、次のような点です。
・途中からアメリカに来たのに、1年分全部を申告するのか ・州税は federal と別に必要なのか ・California と Oregon は州申告があるのに、Washington はなぜないのか ・W-2 があるならそれで終わりなのか ・日本や他州の収入をどこまで意識すべきなのか
結論から言うと、最初にやるべき整理は次の5つです。
- 1federal の申告が必要かを確認する
- 2住んだ州ごとに state return が必要かを確認する
- 3自分が full-year なのか part-year なのか nonresident 的な扱いなのかを整理する
- 4W-2 以外の収入や州外収入の扱いを整理する
- 5還付がありそうなら、申告義務ライン未満でも放置しない
つまり、初年度の確定申告は「給料が出たから1回申告する」という単純な話ではなく、「どの期間に、どの州で、どの種類の収入があったか」を分けて考える作業です。ここを曖昧にすると、必要な州申告を落としたり、逆に不要な前提で考えてしまったりします。
特に西海岸では、California と Oregon は州所得税の申告が視野に入りやすく、Washington は個人所得税がありません。この違いを最初に理解しておくだけで、確定申告の全体像はかなり整理しやすくなります。
前提
まず前提として、アメリカの確定申告は federal と state を分けて考える必要があります。多くの移住者が最初に戸惑うのは、日本の感覚で「確定申告は1回」と考えてしまうことです。しかしアメリカでは、まず federal の申告を考え、そのうえで住んだ州や州源泉所得の有無によって state return を別に考えます。
この時点で、西海岸3州の差が出ます。
California は州所得税があり、州の residency status によって申告の考え方が変わります。California Franchise Tax Board は、part-year resident や nonresident に対して、California 居住期間中の全世界所得と、非居住期間中の California source income を申告対象として整理しています。つまり、「California に途中から来た」「California を途中で出た」「California の雇用主から収入がある」といった人は、resident / part-year / nonresident の区分を意識する必要があります。
Oregon も州所得税があり、resident、part-year resident、nonresident で考え方が分かれます。Oregon Department of Revenue は、part-year resident または nonresident でも、Oregon taxable sources からの所得や、resident 期間中の全所得を基準に申告要件を示しています。つまり、Oregon も California と同様、「1年ずっと住んでいたかどうか」で整理が変わります。
一方で Washington は個人所得税がありません。ここはかなり大きな違いです。Washington Department of Revenue も、Washington には個人所得税がないと明示しています。つまり、Washington に住んでいるから州の personal income tax return を出す、という発想は基本的にありません。ただし、だからといって federal return まで不要になるわけではありません。ここを混同しないことが重要です。
また、federal return についても、「申告義務があるか」と「申告した方が得か」は別です。IRS は filing requirement の基準を示していますが、それ未満でも給与から税金が引かれていて還付が見込めるなら、申告した方がよいケースがあります。移住初年度は勤務期間が短く、年収ベースでは低く見えることもあるため、ここは見落としやすいポイントです。
実際の流れ
最初にやるべきことは、その年にどこで何か月住んでいたかを月単位で整理することです。たとえば、
・1月〜6月は日本 ・7月に California へ移住 ・8月から就労開始 ・11月に Washington へ転居
このように、年の途中で州や国をまたいで動いた場合、感覚で処理しようとすると必ず混乱します。まずは時系列を作ってください。確定申告は、この整理だけでかなり見通しが良くなります。
次に、その年に受け取った収入を種類ごとに分けます。典型的には次のような区分です。
・W-2 の給与 ・1099 系の報酬 ・銀行利息 ・投資収益 ・海外収入 ・前州や他州の源泉収入
ここで重要なのは、「今その州に住んでいるか」だけでなく、「その収入がいつ、どこに結びついて発生したか」です。特に California は California source income の考え方が実務上重要なので、勤務地、勤務実態、雇用主所在地、リモート勤務の状況などが絡むことがあります。
そのうえで、federal return を考えます。IRS は filing requirement の収入基準を公表していますが、還付可能性がある人は基準未満でも申告する価値があります。移住初年度は勤務開始が年の後半になることも多く、給与から withholding された federal income tax が結果的に多めになっているケースもあります。つまり、「年収が低いから何もしなくていい」と雑に判断しない方が安全です。
次に state return を考えます。
California に住んだ年なら、まず resident、part-year resident、nonresident のどれに近いかを整理します。California では full-year resident なら Form 540 系、part-year resident や nonresident なら Form 540 NR が中心になります。特に移住した年や California を離れた年は、Form 540 NR の考え方が絡みやすいです。大事なのは、「California に住んでいた期間」と「California source income があった期間」を分けることです。
Oregon も同様に resident、part-year resident、nonresident の違いが重要です。Oregon は resident なら全所得ベース、nonresident なら Oregon source income ベース、part-year resident なら resident 期間の全所得と、nonresident 期間の Oregon source income を組み合わせて考える構造です。したがって、「Oregon に来たのが年の途中」「Oregon にいたが途中で出た」という人は、full-year 前提で考えない方がよいです。
Washington は個人所得税がないため、state personal income tax return を別で出す感覚はありません。ただし、たとえばその年の前半に California や Oregon に住んでいたなら、その州側の state return が消えるわけではありません。ここで多い誤解は、「今 Washington だから州税申告は何もない」と考えて、前州分の申告を忘れることです。実務では「その年に関係した州」を見る必要があります。
また、W-2 しかない人でも、それだけで全自動では終わりません。W-2 はあくまで給与の情報票であり、それをもとに federal と state の return を組み立てることになります。複数の州で働いた場合、複数の W-2 や州別の withholding 表示が出ることもあります。給与明細の記事とつなげて考えると分かりやすいですが、「どこで税が引かれたか」と「どの州へ return を出すか」は近いようで別の確認が必要です。
よくある失敗
一番多い失敗は、「今住んでいる州だけ見ればいい」と考えることです。移住した年は、今の住所ではなく、その年の途中までどこに住み、どこから収入が出ていたかが重要です。California や Oregon に住んでいた期間があるのに、今 Washington だから州申告はゼロと考えるのは危険です。
次に多いのが、part-year resident の考え方を軽く見ることです。アメリカに来た年や州をまたいだ年は、full-year resident 前提では整理しにくいことが多いです。California と Oregon はどちらもこの区分が非常に重要です。
また、申告義務がないかもしれないから何もしない、という判断も危険です。IRS も、基準未満でも源泉徴収の還付を受けるために申告した方がよい場合があると案内しています。移住初年度は withholding が過大になっていることもあるため、完全放置はもったいないケースがあります。
さらに、W-2 が1枚届いたらそれで完了だと思うのも典型的な失敗です。実際には、州別 withholding、複数州居住、他の収入、居住区分の整理が必要です。W-2 は出発点であって、結論ではありません。
注意点
注意点としてまず大事なのは、federal return と state return を混同しないことです。Washington に個人所得税がないからといって、federal の申告まで不要になるわけではありません。逆に California や Oregon に関係がある年は、federal を出しただけで州が自動完了するわけでもありません。
次に、州の residency は「現在どこに住んでいるか」だけではなく、その年の居住期間や州源泉所得で考える必要があります。California と Oregon はこの点がとても重要です。移住した年ほど、年末時点の住所だけで判断しない方が安全です。
また、無料または低コストの申告手段も年によって変わることがあります。IRS は 2026 filing season で Free File の対象 AGI 目安や無料 options を案内していますし、Oregon は Direct File Oregon も提供しています。初年度で税務が比較的シンプルな人は、こうした公式ルートも検討余地があります。ただし、複数州や海外収入が絡む場合は、単純ケースより慎重に見た方がよいです。
さらに、州申告のフォーム名だけ先に覚えようとすると混乱しやすいです。先に必要なのは、自分が full-year か part-year か、どの州の所得があるか、という整理です。フォームはその後です。
判断基準
初年度の確定申告で迷ったときは、次の基準で整理すると失敗しにくいです。
1つ目は、その年にどの州で何か月住んでいたかを説明できるかです。ここが曖昧だと全部が曖昧になります。
2つ目は、federal と state を分けて考えられているかです。Washington に州所得税がないことと、federal filing requirement は別問題です。
3つ目は、California や Oregon に住んだ期間または source income があるかです。あるなら part-year resident や nonresident の観点が重要です。
4つ目は、源泉徴収の還付可能性があるかです。義務が薄く見えても、 withholding があるなら確認した方がよいです。
5つ目は、W-2 以外の収入や他州要素があるかです。ある場合は「単純な給与申告」と決めつけない方が安全です。
まとめ
アメリカ西海岸に来た最初の年の確定申告は、税率の話より前に「どの期間に、どの州と関係があったか」を整理することが重要です。
federal return は全体の軸として考え、そのうえで California と Oregon は州所得税申告を、Washington は個人所得税なしという違いを理解する。この順番で整理すると、かなり分かりやすくなります。
また、移住した年は full-year resident 前提で考えない方が安全です。part-year resident や nonresident の視点が必要になりやすく、W-2 だけ届いてもそれで思考停止しないことが大切です。初年度ほど、住所の変化、州の変化、就労開始時期が税務にそのまま反映されます。
次にやるべきこと
今すぐやるべきことは次の5つです。
- 1その年にどこで何か月住んだかを時系列で書き出す
- 2W-2、1099、利息、他州収入など収入資料を集める
- 3federal の申告要否と還付可能性を確認する
- 4California または Oregon に関係する期間や所得があるか確認する
- 5full-year ではなく part-year の可能性を最初から意識する
これをやるだけで、初年度の確定申告の不安はかなり減ります。アメリカ西海岸では、税金は単に年収の問題ではなく、州移動と居住区分の問題でもあります。最初にそこを整理できた人ほど、余計なミスや申告漏れを避けやすくなります。
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この記事はアメリカ西海岸ガイドの13個目の記事です。
